ようやく「香川県庁舎」が少し見えてきました。戦後は庁舎建築やオフィスビルなどの、執務空間のプロトタイプをつくることが求められていました。
最初に丹下研究室が取り組んだのが、「名古屋放送会館コンペ案」です。
それから「外務省コンペ案」です。この計画では、バルコニーが出てきているのが分かります。「香川県庁舎」の本館は正方形で、その中心はコアと呼ばれ、階段やエレベーターや水回りが納められているんですが、その壁を構造として効かせています。この案は、細長いのですが、中心に構造のコアがあり、外周に柱がならんでいます。
この考えが実現したのが、「東京都庁舎」の旧館です。このバルコニーは日射を調整する役割がひとつ、外部からの騒音をシャットアウトしたいという意図もあったようです。バルコニーの黒い部分は鉄でできています。
丹下事務所の初めての現場「広島ピースセンター」では、コンクリートの経験がなく、前川事務所時代の道明栄次さんにお願いして現場の指導をしてもらっていました。
「東京都庁舎」のスチールも遠目にはきれいなのですが、現実はどうだったのでしょうか?
これは、外観が鉄骨造に見えるんですが、海外、特にアメリカでこれをやるなら、もちろん無垢の鉄骨で構成すると思います。ところが日本には当時、無垢の鉄骨がありませんでした。だから2.3mmの薄い鉄板を折り曲げてこういう外観を作っています。中が中空ですから、そこに水が侵入して内側から錆びてきます。そういうことで欠陥だらけという結果になってしまいました。
鉄でやってみた。だけれど、実質的な問題が生じた。だから、これはまずいぞと思われたんでしょうか。
丹下さんが戦後始めて外国に行くんですが、そのときフランスとアメリカに寄って、フランスでコルビュジエのコンクリートを見ます。マルセイユの「ユニテ・ダビタシオン」のコンクリートが1階まで打ち上がっていて、ちょっと乱暴すぎると感じたようです。それからアメリカへ行ってミース・ファン・デル・ローエを見るんですが、これからはコルビュジエじゃなくてミースだと感じたようで、そう思ってやるんですが、日本ではうまくできなかった。
これは「東京都庁舎」の内部です。壁画が見えていますが、岡本太郎さんの作品です。
内装もいろんな方が参加しますが、これはコルビュジエの家具をつくっている、シャルロット・ペリアンのものです。
「清水市庁舎」です。
これも、ミースの意識で鉄骨でやりましたが、暑くて我慢できなかったそうです。
いろいろとトライしていった中で、この「国立国会図書館コンペ案」ではコンクリートに回帰してきます。
そして、「香川県庁舎」の仕事にとりかかる1年ぐらい前にこの写真を突然見せられたそうですが・・・
「香川県庁舎」の仕事に取りかかる1年前、ある日丹下さんが、「清水寺の舞台」の写真を持ってきました。非常にたくましい木造で、なおかつ梁がキャンティレバーで突き抜けている。その写真を持ってきて、「いずれこのような、たくましいテザインをやってみたいものだね」と。はからずもそれから1年後に「香川県庁舎」の依頼があったものですから、これをひとつの参考にして、この建物のイメージを丹下さんがつくりました。
そういったことはよくあったんでしょうか?
これは、めずらしい例です。「岸記念体育会館」のときからずっと、骨組を露出してデザインのモチーフにしたいという気持ちがこれにあるものですから、これをもとにしていつかやりたいというチャンスが1年後にやってきたという訳です。
確かに「広島ピースセンター」の空間よりは「香川県庁舎」は骨太ですよね。「広島ピースセンター」は桂的な繊細さが命なんですが、こちらは力強さがある。それは、この辺りから来ていたんですね。