質疑応答

| 林 |

 最後に、せっかくの機会なので会場より質疑をいただきたいと思います。

| 来場者(女性) | 丹下さんの「香川県庁舎」への評価は?

 今日は、貴重なお話をありがとうございました。
 少しお尋ねをしたいのですが、最初に「香川県庁舎」の評価を端的にまとめていただいたのですが、丹下さんご自身は「香川県庁舎」に対して、どのような評価をされていたのか、お聞かせ願えればと思います。

| 神谷 |

 難しい質問ですね(笑)

| 林 |

 まず、やってよかったと満足はされていましたか?

| 神谷 |

 もちろんです。

| 林 |

 これは竣工時の写真なんですが、すごくうれしそうな顔をしています。

竣工時の丹下健三
竣工時の丹下健三

| 神谷 |

 丹下さんもかなり満足されていたと思いますけど、特に知事さんが非常に喜んで、その後、丹下さんだけじゃなくて、何人かの著名な建築家を香川に呼んで仕事を任せています。それによって香川だけではなくて、日本の建築文化、地方の都市の文化が飛躍的に向上したというのは間違いなく言えるのではないでしょうか。
 それが毎日芸術賞で金子さんがその賞を受けるという結果をもたらした訳ですから、その端緒となった「香川県庁舎」は、香川だけじゃなくて、日本の建築文化を国の内外に、海外でもかなり高い評価を得ています。ですので、間違いなく丹下さんは、満足していたと思います。

| 藤森 |

 丹下さんは自分の建物について、言わない人なんです。いろんな建物をつくっていますが、どれがいいとか悪いとか聞いたことがありません。施主もいることなので、言えないこともあります。

 ただ、客観的に見ても「広島ピースセンター」と、代々木の「東京オリンピックプール」と、この「香川県庁舎」の3つが丹下さんの代表作であることは間違いないし、丹下さんもそう思っていたと思います。

| 林 |

 僕が聞いているのは、建物が完成した時、当時はまわりに高い建物がなくてずっと海まで見渡せたんですが、その屋上で、金子知事は目に涙を浮かべて、「山本くん、やってよかったな」と言ったそうです。

 それから、前々回、藤森先生に香川に来ていただいた時に、「近代建築ばっかりならんでいる町並みは味気なくて、よくないものだと思っていたけど、香川県庁舎に敬意を払うようにまわりの建物が建っている姿もなかなか悪くない」とおっしゃっていましたが。

| 藤森 |

 駅から続く中央通りがありますね。あのまわりの建物も割合モダンなものも多いんですが、変なことしてないんですよ。割とちゃんとしています。それはやっぱり「香川県庁舎」がもとにあるからなんだろうなと思います。

| 来場者(男性) | 「香川県庁舎」の発想の源は?

 ありがとうございました。私は前々からこの県庁舎のデザインは和をイメージして、お城のイメージも頭にあってこういう形になったのかなと、昭和33年にできたときからそう思っていました。今日、話を聞いて、それは構造分析に基づいたものであることがよく分かりました。ただ、お城のイメージもあったのだと言っていただければありがたいんですが(笑)。

 それからお庭ですが、庭はなんとなく屋島のイメージを私は持っていたのですが、そういうイメージもあったと言っていただければありがたいのですが(笑)。

| 神谷 |

 いろんな感想を見る人に与える、豊かな建物とはそういうものなんでしょうね。見る人によって、あれに似てる、これにも似てる、そういう見方がいろいろできる。それだけ豊かなんだと僕は思いますよ。

| 林 |

 今の答えはすでに、庭についての質問の答えにもなっていると思いますが、これでよろしいでしょうか。

| 藤森 |

 高松城の代わりってことで(笑)

| 来場者(男性) | 作品集について

 今日は、貴重なお話ありがとうございました。せっかく神谷先生がお見えになっているので、質問したいと思います。私、現在65歳です。実は、20代のときに「現実と創造」「技術と人間」という丹下先生の作品集をむさぼり読んだ世代です。それで、スコピエ以降の都市計画を中心とした作品集が出るとお聞きしていましたが、これは現実に出版されたのでしょうか?そのあたりの経緯をご説明いただければと思います。

| 神谷 |

 晩年に今まで丹下さんがやってきた仕事を鹿島出版会が2冊の本にまとめて、出しています。