東大の建築学科に入るまでには2浪したり、その間にやんちゃな生活をしていた時期もあったようです。そして、大学の中ではいつもコルビュジエの作品集を持ち歩いていたようです。こちら、丹下さんの卒業設計ですが、「ソヴィエト・パレス」と同じように台形の空間が表れています。
卒業設計の敷地は、日比谷公園です。手前は帝国ホテルの敷地。この設計もそうですが、「2つのボリューム」があって、「それに直行する形でアプローチ導線」があります。コルビュジェよりはっきり意図的に計画しています。
この計画には、柱の回廊があり、ピロティ-があります。ちなみにピロティというのは、柱で建物を持ち上げているその空間のことをいいます。
ただ、本当はこういうものをピロティ-と言ってはだめなんです。通り抜けられるのがコルビュジエのピロティなんです。まさにこの県庁ホールの下の空間なんです。
次に、この(卒業設計の)パースですが、丹下さんの同級生の方から聞いたんですが、この中央のカーブする壁には本当に驚いたそうです。これは自然石の乱石張りでカーブしています。コルビュジェがスイス学生会館で初めてやったんですが、自由な曲面を使って、自然石を張るのは、当時の近代建築の原則からは逸脱するものだったんです。この計画の前ぐらいから丹下さんもやり始めた。これがやがて「戦没学徒記念館」や「香川県庁舎」や山本忠司さんの「瀬戸内海歴史民族資料館」に繋がる訳です。コルビュジエの後追いですが、相当粘り強くやっている。
今の話ですけど、後に丹下さんは「機械と手の葛藤」という言葉を残しています。機械的な建築の中に、人間の手の跡が残るような、機械と手がお互いにせめぎあいながらひとつの空間をつくっています。
近代建築というのは、ヨーロッパの石積みの文化から、鉄筋コンクリートというものが出てきて、幾何学的な、装飾のない白いスムースな面の建築をつくろうというもので、コルビュジエがその最高到達点といわれた「サヴォア邸」をつくるのですが、ちょっと味気ないところがあって、その後、ブルータリズムと言って、荒々しいものとか、重たい感じのするものとかを追い求めるようになります。ちょうどそういう時代だったと思います。これは、コルビュジエのパリにあるスイス学生会館です。これが石積みですね。
それとこのタワー状の部分も全部石の予定だったようです。
私たちが入学した1年生の時に、この建物の立面図と平面図をもとにして、自分の気に入った角度から鳥瞰図(パース)を描きなさいという課題が出ました。
それは、丹下さんの出題ですか?
丹下さんの出題です。何人かの人は、機械と手の葛藤というテーマを理解して、この角度でパースを書きました。何人かの人は機械だけ、裏面のパースを書きました。学生がどれくらい理解力を持っているか試していたようです。