そして、卒業した後は、コルビュジエの弟子である前川國男さんの事務所で働きます。その頃に、同じくコルビュジエの弟子であった坂倉準三さんが、パリ万博で「日本館」という建築をつくります。
この建築には、柱と梁を意匠として見せながら、特徴的な斜め格子の壁が出てきます。それを踏まえ、前川國男事務所にいながら、担当者の丹下さんが作品として発表した「岸記念体育会館」というものがあります。
このあたりについて、藤森先生お話をいただけますでしょうか。
前川さんはこの建物を見て、違和感を感じたそうです。木造というのは、もっと素直にやらないといけないのに、造形性が強すぎると。木造でコンクリートみたいなことをやって、おまけに屋根は逆折れになっている。
確かに木造のピロティーは相当大胆だったと思います。そして、当時の若い人たちにはものすごく受けがよかったようです。でも前川さんのようにちょっと上の世代の人たちは違和感をもった。
この「岸記念体育会館」が出来たときに、丹下さんは雑誌に文章を載せています。その文章の中に、構造をあらわにして、それがデザインの基本になる。徹底的にそういう課題をもって、自分はこれからやって行きたいという決意を表明しています。
構造をあらわにして、それをデザインのモチーフにするというテーマは、この「香川県庁舎」で、最高のレベルにまで到達しました。その間にいろんな試行錯誤をやっていますが、この「香川県庁舎」の原点がこの「岸記念体育会館」であることを知ってください。
もう1点言っておきたいことがあります。「香川県庁舎」の建具は引戸になっていますが、この引戸というのがこの「岸記念体育会館」で初めて出てきます。それから、この「香川県庁舎」のホールの引戸の色合いはなんとなく歌舞伎の幕を思い出します。丹下さんから聞いた話ですが、「岸記念体育会館」の中も歌舞伎の3色をイメージしたと。また坂倉さんのパリ万博の「日本館」にもこの色合いがあるそうです。坂倉さんがパリ万博で鉄骨でやったことが、そのまま「岸記念体育会館」に行きます。そしてこの「香川県庁舎」へと続いています。